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福岡地方裁判所 昭和33年(む)803号 判決

申立人 余田幸夫

決  定

(申立人・代理人氏名略)

右申立人に対する福岡地方裁判所昭和三十三年(む)第七八一号刑事訴訟法第一六〇条による過料の裁判事件につき、昭和三十三年七月二十九日同庁裁判官藤島利行がなした申立人を過料五千円に処する旨の裁判に対し、右申立人より準抗告の申立がなされたので当裁判所は次のとおり決定する。

主文

原裁判を取消す。

理由

本件準抗告申立の趣旨並びに理由は別紙申立書及び申立理由補充書記載のとおりである。

しかして一件記録に徴すれば、申立人は被疑者波呂新五郎、同小野明両名に関する地方公務員法違反被疑事件(同法第三十七条第一項、第六十一条第四号)の別紙犯罪事実について刑事訴訟法第二百二十三条第一項により取調べのため所轄警察署及び福岡地方検察庁に出頭を求められたが、これを拒否したので、昭和三十三年七月十一日福岡地方検察庁検察官田原迫卓視より当庁裁判官宛申立人に対する刑事訴訟法第二百二十六条による証人尋問の請求がなされたこと、これに基き当庁裁判官は同月二十四日別紙尋問事項につき申立人を証人として尋問したが、右尋問に際し申立人はその尋問事項の大部分にわたつて証言を拒否し、その理由として自己が刑事訴追を受ける虞がある旨申述べたこと、そのため右裁判官は同月二十九日、「証人が脇山小学校の分会長であつたか否か、証人の所属する分会の組合員の人数、支部長名、分会長名その他証言を拒絶する正当の理由が認められない事項の尋問に対しその証言を拒絶したこと」を理由として、申立人を過料五千円に処する旨の裁判をなしたことが明らかである。

ところで刑事訴訟法第百四十六条に所謂「自己が刑事訴追を受ける虞のある証言」とは、その証言内容自体から自己が刑事訴追を受ける虞(自己負罪の虞)のある場合、換言すればその証言が自己が刑事訴追を受ける虞のある犯罪構成要件事実若しくはこれを推測させるに至る密接な関連事項に及ぶ場合を指すものと解すべきところ、本件について、これをみれば、被疑者波呂新五郎、同小野明両名に対する地方公務員法違反被疑事件についての別紙犯罪事実の内容、及び検察官の申立人に対する証人尋問請求の事由を考え合せると、申立人が右被疑事件について前記被疑者両名と共犯的立場に立たされる虞(蓋然性)がないとはいえず、この事実を基礎に別紙尋問事項を、さきに説示した自己負罪の虞があるか否かの観点から、仔細に検討すれば、右尋問事項はその大部分が自己負罪の虞あることを理由に証言許否の許される事項といい得るのであつて、ただ僅かに右尋問事項(一)証人の身分のうち組合関係を除いた事項についてのみ、前記事由を理由として、証言を拒否することが許されないものといえるに過ぎない。しかるところ申立人に対する証人尋問調書に徴すれば、申立人は現在福岡県教育庁職員であることや、前任地脇山小学校における職員であつた時期などについては証言していることが明らかであり、自己の身分のうち組合関係を除いた事項についての証言を拒否した形跡は見当らない。

そうだとすればさきに説示したところから明かなように申立人の本件証言拒否はすべて正当な理由があるものというべきであるから、右と見解を異にする原裁判は取消を免れず、本件準抗告の申立は理由がある。

よつて申立人その余の主張についての判断を省略し刑事訴訟法第四百三十二条、第四百二十六条第二項に則り主文のとおり決定する。

(裁判官 川井立夫 村上悦雄 麻上正信)

申立の趣旨

原決定を取消す。

申立の理由

一、原決定には次のような違法がある。

原決定は申立人が

「申立人が脇山小学校の分会長であつたか否か、証人の所属する分会の組合員の人数、支部長名、分会長名その他証言を拒絶する正当な理由が認められない事項の尋問に対し、その証言を拒絶したこと」

を以て決定の理由とした。右は一見明らかな如く「その他……云々」として極めて曖昧な表現をとつているため、明確な意味内容を掴むに由ないが、蓋しは、それが例示するような一般的且つ形式的な事項についての証言拒否を意味するものと解される。

しかしながら、例えば申立人が自ら福教組の分会長であることを証することは、単に教職上の地位身分を明らかにするのとは異り、捜査当局が日教組ひいては福教組自体を犯罪団体乃至は虞犯団体とみ、就中分会長(各校責任者)の地位にあるものを、教唆扇動及びこれらの行為の共謀者として擬している今日(特別抗告申立書等に明らかである)、たとえ証人が個々の具体的行動に参加していなかつたとしても、なお共謀による共同正犯者として訴追をうける虞れを招来するものであり、ましてや支部長や他の分会長の氏名乃至は支部内の分会数を明らかにすることは共謀行為それ自体が独立に犯罪と看られている本件においては、まさに申立人自らが訴追の対象となり得べき「共謀」の必要的共犯者やその範囲を明らかにすることを意味するに外ならない。

同様にして申立人が分会所属の組合員数を証言することは、「教唆扇動」行為の対象とその範囲を明らかにすることによつて訴追されることがあるべき事実及びその情状を自ら供述することを意味する情状に関する事項に証言拒否権が及ぶことについては有力な学説がある。(註解日本国憲法上巻六六〇頁)また本年五月以前に有給休暇をとつたことがあるか、との尋問に答えることは、本件と類似のケースを証言することによつて、他の関係証拠と併せ本件の場合も同様手続がとられたとの事実上の推定をなさしめる決定的な資料を証人自らが与えることを意味するであろう。

かくして、原審決定が指摘された各尋問例は、形式的一般的な形こそ執つているが、それらはいづれも後の直接的事項の尋問えの不可分の前提としてなされたものであり、さればこそ或いは直接に、或いは「事実上の推定」に橋渡しされて間接に証人に訴追の虞れを招来するのである。(もし全く本件と無関係の尋問であれば、抑々尋問請求がなされなかつた筈であり、また証人としてもそれを理由に証言を拒んで何等差支えないであろう。)従つてこのような理解を誤つて、申立人を故なく証言拒否したと断定する本件決定は、刑事訴訟法第一六〇条の適用を誤つて違法であると云わざるを得ない。

二、仮に然らずとするも原決定は不当である。

本件が仮に不適法な証言拒否にあたるとしても之に対して原決定の如く過料を科した事は極めて不当といわなければならない。以下その理由を述べる。

(一) 刑訴第二二六条の規定自体が憲法第三七条第二項によつて保障せられた証人審問権を著しく侵害し、憲法違反の疑が極めて濃厚である点は暫く措くも、この事は尠くとも裁判官に対して本条の証人尋問手続の運用にあたつて極めて慎重な配慮が要求されていることを意味するものといい得るであろう。更に又本条の証人尋問手続は、通常の捜査手続に対する真にやむをえない場合の例外的措置であり、通常の公判手続による証人尋問手続に対する例外的な規定でもあるから、特に慎重を期して、苟くも濫用の弊に陥ることのないよう、前同様な配慮が要求されるものであることは明白であろう。従つて又本条による証言拒否に対して制裁を科すか否か、科するとしても如何なる程度の制裁を科するかについても、同様慎重に考慮さるべきことも当然である。

(二) 更に今回の本件証人尋問手続自体極めて妥当を欠いた措置であつたと云わなければならない。即ち今回証人として喚問された人々は実質上被疑者たる地位に立たされる虞のある――現在の捜査官の態度からみて――人々であつて、今回の証人尋問手続は、卒直に云うならば名を証人尋問にかりてその実被疑者として有する正当な権利を剥奪せんとしたものに他ならない。尠くとも客観的には正にそのような役割りを果しているのである。今回証人として喚問せられた人々は、被疑者として表示せられている者と同一の組合に所属する同志であり、被疑事実として表示せられている事実はその組合活動を含むものとされているのであり、更には右被疑事実の適用罰条とされている地公法第三七条同第六一条の文言自体極めて漠然とした不明確極まるものであつて、現在の如き捜査官の態度からみて、同条違反該当者の範囲が始んど無限に拡大される可能性が極めて大であるという事情を考慮するならば、今回の如く多数の組合員を「証人」として喚問した措置は極めて危険な、不当な措置と云わなければならない。

(三) 次に問題となるのは、今回の証人尋問期日指定措置の不当性である。今回の証人尋問期日と、右期日召喚状送達の日との間には、わずかに一日を存するに過ぎない。此の点につき刑事訴訟規則第一一一条が特に召喚の猶予期間につき規定していることに留意さるべきである。尚又実質的に考えてみても、ここでは法律専門家にとつてすら余り親しまない。かかる特殊な手続を受ける一般人にとつては、到底その正当な権利行使を保証することは不可能である。もつとも之に対しては或は次の如き反論が為されるかも知れない。即ち、証人として喚問された者に対しては、尋問に先立ち、予め裁判官より証言拒否権の存在を告げられることになつているから右の非難は当らないものであるという反論である。しかし之は全く形式論に過ぎない。刑訴第一四六条による証言拒絶権の範囲は、今回の如き地公法第三七条違反の事件に関しては特にその範囲を認識するのは極めて困難である。前述の如く今回証人として喚問された人々が何れも被疑者として表示されている人と同一組合員であり、且つ地公法第三七条違反該当者が、組合員全体に無限に拡大される可能性のある本件に於ては恐らく法律専門家と雖も、証言拒絶権の範囲を決定することは極めて困難であろう。しかもかかる重大な問題の在する本件証人尋問を前述の如く、極めて唐突に施行したことは尚一層被喚問者に対して重大な困惑を与えるものであることは明らかである。

(四) 従つてかかる場合次善の策として考えられる事は、右尋問に弁護人の立会を認めることである。尤も、弁護人の立会は云うまでもなく、被疑者の利益保護が主目的であつて証人の権利保護は必ずしもその目的でないということは云えるかも知れない。しかしながら同時に弁護人は裁判官の訴訟手続の適正な遂行に協力する職責をも有するものであることも明らかな処であり、今回の如く証人として喚問せられた者と被疑者として喚問せられた者とが前述のような関係にある場合には、弁護人を立会わせることによつて証人に対しては無用の疑心暗鬼を取除き、手続上の無用のトラブルを避け、手続の円滑な進行を期待し得るものであることは容易に理解し得る所であろう。特に前述の如く証言拒絶権の範囲を確定するに甚だ困難な場合には、尚更右の如き立場に在る弁護人が立会うことによつて、多大の効果――裁判所にとつても好ましい所の――を期待し得たはずである。現にその意味で、今回の尋問前に、弁護人より裁判官に対して立会を強く要求したのであるが、遺憾にも裁判官は何等首肯し得べき理由をも示すことなく之を拒否しているのである。従つて今回の問題も、敢えて云うならば裁判官自ら招いたものと云うも過言ではない。

(五) 以上の如き諸事情を綜合考慮するならば、今回の如き証人尋問に於て、証人に対して不適法な証言拒否をしないことを期待しうる可能性は、殆ど無かつたことは明らかであろう。加えて、本件証人尋問手続の前述した如き特異な性格等を勘案するならば、仮に不適法な証言拒否の事実が認められるとしても直ちに過料の制裁を科する処置に出でた事は極めて不当であつて、卒直に云う事を許されるならば、かかる措置に出でた裁判官の意図に付いても重大な疑念を抱かざるを得ない。此の点我々はいわゆる菅生事件公判に於て、戸高公徳に裁判官の命令があつたに拘らず不法に証言を拒否し、しかも裁判所はついに右証言拒否に対し何等の制裁をも科さなかつたことを想起するものである。しかも法定額の最高たる金五千円の過料を科したことは極めて過重であつて尚更その疑惑を深めさせるものがあるのである。

六、尚又附言しておきたいことは本件過料の裁判と併行して、捜査官側に於ても、続々と右証言拒否を刑訴第一六一条違反として出頭要求をかけ、出頭した者に対しては、右違反による訴追を強迫の手段として、地公法第三七条関係の容疑事実の供述を強要している事実があることである。裁判官としては、右の事実は何等関知する所に非ずと云われるかも知れない。しかしながら、此の事実は、今回の裁判官の措置が、裁判官の主観的意図如何に拘らず、捜査官側の不当な組合弾圧に百%利用されていることを明らかに物語るものである。更めて裁判官の深甚な反省を求めると共に、速かに原決定の取消をされるよう請求するものである。

申立の理由補充書(その一)

一、本件過料の裁判は理由を附さない違法がある。(刑訴法四四条一項違反)

本件過料の裁判書には「その他これに対する証言を拒否するにつき何ら正当の理由が認められない事項の尋問に対し、その証言を拒絶した云々」とあるのみで、具体的に如何なる事項についての証言拒絶であるかは、分会長なりや、支部長等以外については全然明らかでない。刑訴法四四条二項が「上訴を許さない決定又は命令には理由を附することを要しない」と規定した趣旨は本来不服の申立をなし得る裁判については、如何なる点が不服であるかが明確にされなければならないから、不服申立ができるよう理由を附すべきものであるが、不服申立を許さない裁判については、理由を附する必要がないこととしたものである。

なお、刑訴法三三五条は有罪判決につき罪となるべき事実、証拠の標目、及び法令の適用を示すべきことを要求しているのであるが、過料の裁判も、右有罪判決と本質的に異るものではないから右規定を準用すべきものである。

なお、憲法三一条の法定手続の保障中には本件のような秩序罰執行罰が含まれるのであるから(法学協会編、日本国憲法上巻五九一頁)、具体的理由を附さない本件裁判は右憲法の条項にも違反するものである。

あるいは云うであろう。本件裁判には分会長の地位、支部長名等に関しての一応の例示的理由を附してあり、その他抽象的理由を附してあるから差支えないと、然し、凡そ裁判はこれを受ける者にとつて諒解できるように理由を附すべきものであるのみならず、例え一部について例示があつたとしても、過料の程度を定めるについては充分ではないのみならず、本件裁判は具体的例示事項のみならず「その他」以下の全然不明の理由により、これを綜合して過料を科したものであることは明らかであるから、結局、裁判に理由を附したことにならないので違法である。よつて、原裁判は取消を免れない。

二、本件過料の裁判は刑事訴訟規則第一二二条の規定に違反する違法がある。

次に本件裁判書によると「当裁判官が尋問するに当り……証言を拒否するにつき、何ら正当の理由が認められない事由の尋問に対し、その証言を拒絶した」と記載するのみで証言を命じた旨の記載はない。

然し刑訴規則一二二条二項は「証言を拒むものがこれを拒む事由を示さないときは過料その他の制裁を受けることがある旨を告げて証言を命じなければならない」と規定し証言命令のあつた場合に初めて制裁を科し得ることを明らかにしている。この規定は一見「証言を拒む事由を示さないとき」に限定されているかに見えるがその場合だけに限定さるべきではなく、証人が自己訴追のおそれがあると述べた場合において、裁判官がその理由の開示が正当でないと判断したときも同様証言命令をなすべきものと解すべきである。蓋し、通常人にとつては証言拒絶の正当理由の限界が明らかでなくその判断に迷う場合に専門家たる裁判官から過料その他の制裁を受けることがある旨を告げて、強く証言命令があればこれに対しては特に注意を集中して証言又は拒絶につき前後的に決断をなす機会が与えられるからであるこの点において証言拒絶の事由を示さないときと示したときとの間に何らの差異がなく、むしろ拒絶の事由を明に示した場合こそ裁判官において、かかる証人の利益のためこれが正当性を判断して正当な事由を開示したことにならないと判断すれば即座に証言命令をなすべきであろう。違法な証言命令について制裁を科せられない立場にある裁判官が、かかる命令をなすことなく、即ちその場において自ら正当性についての判断をなすことを怠り、漫然と質問し、爾後において記録を精査した上過料を科するというのでは、当該証人としては全く危険な状態に曝されることとなるであろう。」

しかるに本件裁判書には前記の如く、証言を命じた旨の記載は全然なく、また事実上も証言の命令はなされていないのであるから、本件過料の裁判は右刑訴規則一二二条に反し違法で取消さるべきものである。

三、本件過料の裁判に憲法第三一条の法定手続の保障の条項に反する。本件過料の裁判が、裁判に理由を附さないことになり刑訴法四四条一項並に憲法三一条の規定に違反するものであることは前述したところであるが、さらに左の理由により、憲法三一条の条項に反するものである、

刑訴法一六〇条は「証人が正当な理由なく……証言を拒んだときは、決定で五千円以下の過料に処することができる」旨を規定する。(本件では二二八条一項により準用)而して右過料を科するに当つては上訴権の外は証人防禦権のための何等の保障手続が定められていない。

しかしながら憲法三一条の法定手続の保障は、近代民主々義国家における裁判に対する国民の防禦権を保障したものであり、一定の歴史的内容を有するものである。例えば、米国憲法(修正第五条)についてウィルビーは、審尋の機会(Oppotunity of Hearing)が与えられなければならないとし、(イ)適正な警告が与えられなければならない。(ロ)出頭し、自己の権利を防衛する機会が与えられねばならない。(ハ)裁判所は公正公平なものでなければならない等のことが含まれるとしている。また、犯罪について「通常の知能を持つ人が、犯罪であるかないかについて意見を異にするような刑罰法規は適法手続に反するとしている。(法学協会註解日本国憲法上巻五九五頁)然るに刑訴法一六〇条二二八条の場合は、裁判官はまず出頭証人尋問の主宰者たる裁判官が過料の裁判をなすことにおいて公正、公平の保障にかくるものであり、警告に対し自己の権利を防衛するための機会(例えば証言拒絶の範囲について研究再考する余裕期間、拒絶が正当であることについて充分に裁判官に説明するための機会)が与えられていないのである。(被疑者の弁護人、又は証人の代理人の出頭は権利としては認められないというのが大部分の学説判例である)

而も本件証言拒絶の範囲については、後述のように、自己が刑事訴追をうける可能性乃至はその可能性を高める範囲について法律の専門家においてさえ極めて判断に苦しむ問題を包擁しており正に「通常の知能をもつ人が犯罪であるかないかについて意見を異にする」ような場合に該当するのである。

これらの点から考案すると、刑訴法一六〇条、二二八条の規定は憲法三一条に反し無効であり、仮に然らずとするも本件裁判は右憲法の条項に違反し無効である。

四、本件過料の裁判は事実誤認又は憲法及び法律の解釈、適用を誤つて過料を科した違法がある。

(一) 刑訴法第一四六条(自己の刑事責任と証言拒絶権)の範囲については、従来我国には判例も乏しく学説上も未だ未開拓の分野に属すると云えよう。しかし例えば左の如き有力な学者及び実務家の意見がある。

小野清一郎、横川敏雄、横井大三、栗本一夫氏共著刑事訴訟法一四六頁「……その証言のみによつて起訴される可能性を生ずる虞のある場合に限らず起訴される可能性を高めるような場合も含む」

「検察官の不起訴処分があつてもそれは起訴の可能性を消減せしめることにはならない。」

「証言を拒むかどうかは証人の自由である。……又進んで証言をした場合には、その範囲内では最早証言拒否権を失うものと解する。従つて同一事項につき、更に突込んだ尋問があつた場合には(特に反対尋問については)証言を拒むことができないものと解すべきである。」

(二) 更にこれを米国の裁判例についてみると(河原俊一郎著「基本的人権の研究」一四六頁以下)

ホフマン事件について

問 ホフマン君、君は、今何をしているか。

答 答弁を拒否する。

(中略)

問 今週彼に会つたか

答 答弁を拒否する。

(中略)

問 最後に彼と会つたのは何時か

答 答弁を拒否する。

(中略)

問 現在ワイスバーグ君がどこに居るか知つているか。

答 答弁を拒否する。

旨の拒否により、裁判所侮辱で五ヶ月の禁錮に処せられたが、連邦最高裁判所で破棄されたのであるが、最高裁の判決要旨は次の通りである。

修正五条は「何人も刑事事件において自己に不利な証人となることを強制されない」と定めているが、この規定には、保障せんと意図した権利が有利となるように、自由な解釈が与えられなければならない。

この特権は連邦刑事法による有罪判決をそれ自体において正当とする答弁に及ぶのみならず、特権の主張者を訴追するに必要な証拠の連鎖中の一環を供するであろう答弁にも及ぶものである。……もし証人が特権の主張をなすに当り、裁判所において通常立証上必要とされる程度において危険を証明することが要求されるものならば、それは特権の保護を廃棄することを強制されるに均しいものである。……下級裁判所は上告人が答弁したならば、彼もそれらの活動に従事したことを暴露することができたことを考えるべきであつた。……ワイスバーグに関する質問中三つは上告人との接触に関する情報をえんとしたものでそれらは連邦犯罪につき有罪判決をうける危険にさらす事実の連鎖中の一環をなすものである。……上告人が連邦犯罪による訴追の危険を感じたのは合理的である。」

(三) 更にブラウ事件においても(前掲書一四四頁)「証拠の連鎖中の一環」の語を使つている。更にローヂヤース事件においては、最高裁判所は左の如く述べている。

「もし上告人が特権の保護を欲するならばそれを主張しなければならない。特権は援用しない限り放棄されたものとみなされるものである。……上告人は、共産党との関係に関する罪とする質問に答えたとき既に沈黙の特権は放棄したのである。……上告人が党の会計官であつたことを自供した後には、その後継者の氏名を述べることは訴追の危険を増加する単なる想像的可能性以外の何物でもなかつたのである。」

(四) 以上の学説判例によつても明らかなように、「起訴される可能性を高める」ような証言又は、「有罪判決をうける危険にさらす事実の連鎖中の一環」をなす証言は拒否し得るのであり、或る団体との関係に関する「質問に答えたときは既に沈黙の特権は抛棄した」とみなされるおそれがあるのである。

(五) これを本件過料の裁判についてみれば、準抗告申立人たる証人が、福岡県教職員組合の分会長であることを証言することは、その分会長の組合における地位、分会長の職責、分会長と組合執行委員会、支部長乃至は分会闘争員との関係を明らかにせざるを得ないこととなり(特権の抛棄少くとも「起訴の可能性」を著しく高めることとなるのである。同様にまた証人の分会が闘争する支部の支部長が何人であるかを証言することは、右支部長と分会長たる証人と何時どんな関係で知りあつたかを答えざるを得ず、結局自己が分会員又は分会長であることを明らかにし、組合との関係を証言せざるを得なくなること、前掲の場合と同様であり、著しく起訴の可能性を高めることとなるのである。なんとなれば本件被疑事実は福岡県教職員組合幹部乃至は組合員の地公法三七条違反の共謀共同正犯を対象とするものであるからであり、そのあおり行為も指令の発出、伝達、配布指示等々となつている。(佐賀県教職員組合幹部に対する起訴状によれば、「同盟罷業を行わしめるため、これを煽動することを他の執行委員と共謀の上」第一、「二、二三、三、休暇闘争に対する法的見解」なる文書を配布して、年次有給休暇に名を藉る一斉就業拒否の方法による闘争の必要性と合法性を強調して組合員の闘争参加を促し……示第四号を配布し、中略、第三、……中央委員会の決定事項を夫々組合員たる市町村立、小中学校職員に伝達し(中略)第六(二)……「今度の闘争には絶対脱落しないで、しつかりやつてくれ」と申し向けたことが、それぞれ「同盟罷業遂行をあおつたものである」としている。)

(六) かくの如く、本件、被疑事実たるあおり行為は、実に広汎で殆んど組合の日常活動の全般に及んでいるのでありこのこと自体憲法二一条、二八条に違反するものであるが現に支部長自体が被疑者たることは証人召喚状自体によつて明らかなところであるが、支部長と分会長とはその職分に広狭の差はあれ、その性質においては何等異なるところがないのである。

以上の点より考察すれば、準抗告申立人が本件証言を拒絶したことは正に憲法三八条一項、刑訴法一四六条の権利を行使し得る場合に当り刑訴法一六〇条の「正当な理由」がある場合に該当するものであるから、これを正当な理由なきものと認定してなした本件過料の裁判は事実誤認又は憲法三八条一項、刑訴法一四六条、同一六〇条の解釈適用を誤つた違法があり取消さるべきものである。

なお憲法三八条一項は、「何人も自己に不利益な供述を強要されない」と規定し、右「不利益」が必ずしも刑罰に限定されるものとは解せられない。少くとも懲戒罰は包含されるべきものと解せられるところ偽証罪、誣告罪では刑事処分懲戒処分の両者を包含する。申立人は地方公務員として、地公法三七条、同二九条の適用を受け更に争議行為に参加することだけで(この場合刑事罰の対象とはならない)懲戒罰の対象となり、場合によつては免職処分すら受けるおそれがあるのであるから(罰金と免職処分の何れが実質的に不利益であるかは、自ら明らかである)、分会長であるかどうかを証言することのみならず、更に地方公務員であること、又は職員団体の構成員であることを証言するだけで、既に懲戒処分を受ける可能性があるとも云えるのである。この意味においても本件、過料の裁判は、前掲憲法並に刑訴法の各条項に違反するものである。

五、本件過料の裁判の基礎となつた証人尋問の手続は憲法三七条二項三項、同三八条一項並に刑事訴訟法二二六、二二八条二項に違反するから過料の裁判も違憲違法である。刑訴法二二六条は「犯罪の捜査に欠くことのできない知識を有すると明らかに認められる者」に対し検察官に第一回公判期日前の証人尋問の請求を認めている。この規定は、当該被疑事件の本来の被疑者には適用されないのみならず、右被疑事件の共犯者とされる者にも適用さるべきではない。蓋し犯罪の捜査に欠くことのできない知識を有する者は、正に被疑者本人であり、又はその共犯者であるがこれらの者は憲法三八条一項により自己に不利益な供述を強要されない権利を有するからである。若しこれらの者を刑訴法二二六条により刑罰並び秩序罰その他の制裁を加え証人として尋問することが許されるとすると、右憲法の保障は事実上無効となり刑訴法における当事者対等の原則はくずれ去るであろう。

然るに本件証人尋問手続においては同一組織内の一級上部機関たる支部長を被疑者としながらこれと質的に何ら異ることのない分会長を証人として尋問していることは、明らかに右憲法三八条一項、刑訴法二二六条の解釈適用を誤まつたものであるか、然らざれば脱法的権限濫用である。この点において本件証人尋問手続は違憲違法である。

次に憲法三七条二項、三項は「刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられる」こと、「いかなる場合にも資格を有する弁護人を依頼することができる」ことを保障している。右は刑事被告人たると被疑者たると異なる理由はない。蓋し、国民の権利、利益を保護する面からみれば被疑者の場合は一起訴の段階にまで容疑の固まつた被告人の場合よりも更にその利益を保護する必要があるからである。

而して刑訴法二二八条は、「裁判官は捜査に支障を生ずる虞がないと認めるときは被告人、被疑者又は弁護人を前項の尋問に立ち会わせることができる」と規定する。

この規定は右証人尋問手続において作成されたいわゆる裁判官面前調書が刑訴法三二一条一項一号の規定により殆んど無条件的に証拠能力ありとされているたてまえ上被告人被疑者の証人審問権を保障した前掲憲法三七条二項に違反する疑いが極めて大きい(証人とされた者が事実上、被疑者であるばあいは、その者との関係において前述の如く憲法三八条一項違反となる)

この点につき例えば浦辺衛判事綜合判例叢書「刑事訴訟法」五八頁は左の如く述べている「しかし刑訴二二八条の合憲性と、刑訴三二一条一項一号の合憲性とは密接不可分の関係にあり、刑訴三二一条一項一号の調書も証拠とされる場合があるとするならば、刑訴二二八条二項の手続自体も憲法三七条二項に違反しないといつてよいか問題がなくはない」

法学協会「註解日本国憲法」上巻六四八頁も次の通り違憲の疑ありとしている。

「被告人を退廷させ証人尋問を行い、しかるのち裁判長が被告人にその証言の要旨を告げてこれを尋問する機会を与えるのは、はたして審問の機会を「充分に」与えたものといえるかどうか疑問である。まして尋問当時に審問の機会を与えなかつた尋問調書の類を証拠とすることは――後述の伝聞法則の例外として是認される場合は格別――のちに公判期日において被告人にその者に対する審問の機会を与えても許されないものというべきであろう。

これを本件証人尋問手続についてみれば、尋問につき被疑者又は弁護人に対し何等の通知がないのみならず被疑者の弁護人より尋問手続参加を求めたに対し裁判官は何等「捜査に支障を生ずる虞」についての具体的な事実を示さないで右請求を拒絶し、かつ検察官の立会は認めている。前掲浦辺裁判官は(五五頁)「捜査手続における証人尋問についてもできる限り反対尋問の機会を与えるべきであり、刑訴法二二八条二項の規定も、むしろ原則的には被告人等の立会を認めるべきで、特に捜査に支障を生ずる虞れのある場合に限つて立会権を与えないとの趣旨と解すべきものと思う」とされる。また佐伯千仭「刑事裁判と人権」一四頁は「被告人(被疑者)弁護人の立会を拒否しながら、検察官のみの立会を許すことは法の精神を裏切るものである」とされる。かくては全く旧法時代の予審手続の復活であり、憲法三七条二項の規定に明らかに違反するものといわねばならない。

以上の如く憲法並に刑訴法の規定に反して行われた本件証人尋問手続そのものが違法であるから右手続においてなされた本件過料の裁判もその基礎を欠き違法であるから、取消さるべきである。

六、仮に以上の理由がないとしても、本件過料の裁判については、証言拒否につき準抗告申立人に故意過失がないものであるから、結局「正当な理由がなく」拒んだ場合に該当せず、またもし万一それに該当するとしても裁判官においてその権限を乱用してなした裁判に該当するから違法である。

蓋し本件の場合、分会長たること等を明らかにすることについては支部長に対する被疑事実自体との関連上、少くとも拒絶権の範囲に含まれるか否かについて法の専門家においてすら極めて判断困難な問題を提起していることについては前述の通りである。

況や通常人たる申立人が裁判官の面前において、このような高度の判断を要する事項について即座に態度をきめることは殆んど不可能なことに属するものである。

申立人は本件証言の拒絶については、固より正当な理由があると信じて拒絶したのであるが仮りにその判断が誤りであつたとしても、右は裁判官の面前において熟考再考の余地も機会も与えられず、突嗟の判断に基ずきなしたものであるから、通常人としての判断の能力の限界を超え、不可抗力に類するものである。(証言拒絶の規定は「保障せんと意図した権利が有利となるように自由な解釈が与えられなければならない」とは前掲米連邦最高裁の判決であり、本件の場合、二者択一に当つて拒絶を選んだことは申立人の有利という観点からして当然のことである。)したがつて申立人の本件証言拒絶は故意、過失がなく、違法性がないものであるから、結局「正当な理由なく」拒絶した場合に該らない。仮りに然らずとするも、このような秩序罰に関する法規の解釈を誤つたことは少くとも故意でなく、過失たるに止まるから、過失を罰することはできないものである。(地公法五〇条の人事(公示)指示違反で(同法六〇条三号)起訴せられた事件について被告人(地方公務員)がかかる罰則の規定があることに気がつかなかつたとしても、故意によつてではないとして無罪を言渡した判決(判例時報参照)

またこれを他面から見ると、裁判官は通常人たる申立人に前記の如き判断困難な問題につき、熟考再考の機会を与えず即座に証言を強制し、裁判官が法廷において即座に過料の裁判をなすことなく、数日にわたり研究したこと自体、判断の困難なことを示すものである。また申立人としてはその後の熟考の結果更に証言することにより過料を免れる機会を全然与えられなかつた。)

右、即座の質問に対する証言拒絶に対し過料を科したことは証人となる者にとつて、余りに酷であり、明らかに裁判官においてその権限を濫用してなした裁判であるから違法である。(この点については準抗告申立書にも記載したように、いわゆる菅生事件公判期日において戸高公徳に対し極めて重要な質問があつたにも拘らず、証言を拒絶し、而も弁護人側より過料制裁の申立までしたに拘らず、遂に何ら過料の裁判をしなかつたことを対照すべきであり、余りに不公平である)

なお裁判官が証人の正当な証言拒絶権を無視して証言を命じた場合に制裁の規定がないのにも拘らず、証人のみに制裁があること自体が甚だ不公平であるから、少くとも裁判官は過料の制裁を科するに当つては極度に慎重な態度で臨まなければならないことは云うまでもない。

七、仮りに以上の主張が理由がないとしても、本件過料の裁判は左の理由により取消さるべきものである。

申立人は本件証言拒絶をなした後において、再度熟考した結果、現在においても依然として証言の正当な理由があると確信してはいるが、しかし特に教育公務員たる身分上、過料の制裁を科せられることは甚だ不名誉、不利益であることを考慮した結果分会長なりや否や、及び自己の分会が所属する支部の支部長名その他の尋問(その他証言拒否につき正当の理由が認められないと裁判官において判断される事項については具体的摘示がないためにその範囲を言明することができないのは遺憾であるが)につき何時なりとも裁判官の召喚に応じ証言をなす意志を有し、この旨を別紙上申書を以て、裁判官に対し誓約しかつ尋問されたい旨を申出ているものであるから、未だ確定しない本件過料は取消しの上、改めて刑訴二二六条の証人尋問をなすべきである。蓋し刑法一六九条偽証罪についてすら、「証言したる事件の裁判確定前又は懲戒処分前自白したるときはその刑を減軽、又は免除することを得る(刑法一七〇条)」旨の規定が設けられていることとの均衡上、(誣告罪についても同様刑法一七三条)刑罰でない単なる秩序罰にすぎない本件証言拒絶に対する過料の裁判については、右刑法の条項の趣旨は当然に準用さるべきであるからである。あるいは反論して刑訴二二六条は捜査の手続に関する規定であるから、一定の時期的制約があり、その証言の時を過ぎれば意義を失うものであると。

しかし、証言拒絶権の限界そのものが前述の如く極めて判断困難な事柄に属するのであるし、またすでに提出した準抗告申立書にも、主張した如く、本件証人に対する召喚が極めて短時間を以てなされており申立人が証言拒絶権の範囲を熟慮検討する余裕がなく、一方被疑事実の発生後のものは三ヶ月以前に属し、証言の時期が若干おくれたとしても捜査上特に著しい支障を来すとは考えられない等の事情を考慮するときは、本件の場合改めて証言を命ずることは決して捜査上時期を失するものとはいえないのである。

犯罪事実の要旨

被疑者 は福岡県教職員組合 支部長であるが被疑者同組合執行委員長小野明等役員と共謀の上福岡県教育委員会の同県下小学校中学校教職員に対する勤務評定実施に反対しこれを阻止する目的をもつて同組合の組合員である教職員をして年次有給休暇に名を藉り市町村教育委員会及び学校長の承認なく全員就業を拒否しもつて争議行為を行わしめるためこれを煽動することを企て、昭和三十三年四月二十九日頃福岡県柳川市伝習館高校における同組合定期大会の戦術委員会において

同年五月七日を期して右争議行為を決行することを謀議決定しその頃福岡県教職員組合中央闘争委員長小野明名義の

各組合員は五月七日有給休暇を請求して地闘単位の勤評阻止のため措置要求大会に参加せよ業務命令が出されても受取らず集会に参加せよ

等と記載した同年四月二十九日附指令第一号を発令し

年次有給休暇に藉口した全員就業拒否の方法による闘争指令を伝達し

更に被疑者 はその頃同支部傘下分会役員等を介し同組合員である市町村立小中学校の教職員に右の旨を指示しもつて地方公務員である前記学校の教職員に対し争議行為の遂行をあおつたものである

証人 に対する尋問事項

(一) 証人の身分

組合歴、何時から 校分会長をしているか

分会長の任務、責任

(二) 証人の学校(分会)は組合員何名居るか

(三) 証人の分会はどこの支部に所属しているか

その支部には分会がいくつあるか

支部長名、各分会長名(知らぬなら分会名)を述べよ

(四)(1) 証人は本年五月七日学校に出勤したか、又平生通りの授業をしたか

(2) 他の分会員はどうだつたか

(3) 出勤しなかつた者は福教組の勤務条件の措置要求大会に出席し、当日の授業を抛棄したのではないか

(4) その措置要求大会の場所並に大会の出席者概数、議事概況

(五) 五月七日は生徒の処置はどうしたか(自習を命じたのではないか)学校の運営、管理は誰が担当したか

(六)(1) 五月七日学校を休むについて休暇願或は休暇届を出したか

(2) 他の分会員はどうしたか

(3) 証人並に他の分会員の休暇願は夫々誰が書いて何時、何処で、誰に提出したか

(4) 学校長に提出した理由如何、学校長が休暇承認権があるためか

(5) 校長はその休暇願を受理したか、受理拒否したか

その際の状況、言葉のやりとり詳細述べよ

(6) 休暇をとることについて校長の承認があつたか、(休暇は認めないと云つて許可しなかつたのではないか)

(7) 業務命令は出なかつたか

それは文書によるものか、口頭命令か

その業務命令の内容如何(貴下の請求にかかる五月七日の年次休暇については承認できないので、出校の上、平常の業務に従事されたいと云う内容ではなかつたか)

(8) その業務命令は校長名義の命令か

(9) 証人は何時、何処で誰からその業務命令を受領したか

他の分会員はどうだつたか

(10) 証人はその業務命令に従つたか

命令を拒否したのではないか

従わなかつた理由如何(組合の指令によるのではないか)

(11) 他の分会員は業務命令に従つたか

(全員拒否し休暇をとつたのではないか)

その理由如何(組合指令によるものではないか)

(七)(1) 証人は本年五月一日以前に年次休暇をとつたことがあるか

(2) あるなら、その際の休暇願は誰に提出したか

又その際学校長の承認を得て休んだか

(八)(1) 本年四月二十八、九日の第十一回定期大会所謂柳川大会に出席したか

(2) 大会の場所は何処か(伝習館高校か)

(3) 右大会に出席した者の氏名如何

中闘委員長 小野明   はどうか(写真を示す)

〃副委員長 花田久男  〃〃

〃書記長  豊島幹直  〃〃

〃〃    中村邦臣  〃〃

〃組織部  草場実   〃〃

〃〃    島田二男  〃〃

〃〃    宮崎治三郎 〃〃

〃〃    入江千代子 〃〃

〃教宣部  三好雅目  〃〃

〃〃    岩田泰治  〃〃

〃〃    小坪熊夫  〃〃

〃〃    増本キクエ 〃〃

〃調給部  藤田毅   〃〃

〃〃    大神一彦  〃〃

〃〃    田中勝美  〃〃

〃会計委員 唐金喜好  〃〃

(4) 証人の所属支部から誰々(どこの分会)が出席したか

(5) 参加総員数はどれ位だつたか

(6) 柳川大会の概況説明せよ

大会で第一号議案 決算承認に関する件

第二号〃  昭和三十三年運動方針並に大会スローガンに関する件

第三号〃  当面の闘争に関する件等の議案が第九号迄ありそれ等の討議があつたのではないか

(7) 大会の前に委員会もあつた筈だがどんな名目の委員会が持たれたか

その委員会の種類、構成人員、出席者氏名

(8) 大会参加の際どんな文書の配布を受けたか

経過報告書一冊、第十一回大会議案集もあつたのではないか(証を示すこと)

議案集の中に第三号議案「当面の闘争に関する件」も綴じてあつたのではないか

(9)(1) 第三号議案にはどんなことが記載されていたか

(基本的態度として「一斉休暇を以て勤評を阻止すること」とし、闘争の進め方として「中央執行委員長の指令により五月十日休暇届を出して一斉休暇をとり勤務条件の措置要求大会に参加すること」になつていたのではないか)

(2) 大会で三号議案についてどのような意味の説明、討論が行われたか

説明者、発言者の氏名如何、証人は発言しなかつたか、特別の意見も出さなかつたか

反対意見は出なかつたか、その内容及び発表者氏名を述べよ

(3) 特に第三号議案のうちの「戦いのすすめ方」について誰が説明し誰々がどんな意見を述べたか

反対意見はなかつたか、誰々が反対したか

それに対して誰からどんな説得が行われたか

(4) 議案書には五月十日一斉休暇とあるが

五月七日に変更することはどのようにして決つたか

そのことは誰がどのように説明したか

(5) 業務命令が出された場合の措置については誰からどんな説明があつたか、

反対意見は出なかつたか

誰からどんな意見が出たか

それについて誰からどんな説得が行われたか

(6) 第三号議案は提案通り承認されたか

採決方法はどうしたか

(十)(1) 第三号議案は二十九日の大会に附議する前に二十八日夜の戦術委員会で討議し休暇闘争日五月十日を五月七日に変更すること等が決められたのではないか

(2) 証人はその戦術委員会に出たか

(3) 誰々が出席したか(前記中闘委員の名を挙げて尋問され度い)

(4) その戦術委員会の議事内容、発言者並にその内容如何

(十一)(1) 柳川大会に日教組本部からも代表者が出席したのではないか

(2) その氏名如何(紹介されて演壇に立つたのではないか、役職も分らないか、小林委員長ではなかつたか)

(3) その発言内容如何

(十二)(1) 四月二十九日附福教組指令第一号(証を示すこと)「統一行動に関する件」は何時、何処で、誰からどんな方法で受取つたか

(2) その指令は誰の名義になつていたか、名義の下に印は押してなかつたか

(小野委員長或は分会長名議で押印があつたのではないか)

(3) その指令の内容概略を述べよ

(五月七日一斉休暇をとつて措置要求大会に出席せよ、休暇願は前日迄に校長に提出せよ、業務命令が出ても拒否せよ、と云う趣旨ではなかつたか)

(十三) 指令第一号を会議の席等で手渡されたものなら

(1) その会議の開催日時、場所、出席者氏名、人員

(2) その会議の目的、指令第一号に関する説明者、説明内容、発言者、発言内容、特に別紙一「勤評阻止の措置要求大会実施要領」別紙二「電報暗号」並に「措置要求要領」については誰がどんな説明をしたか

(3) 出席したオルグの氏名、発言内容

(4) 業務命令が出たときの措置については誰がどのように説明指示したか

(5) 一斉休暇について反対意見者はなかつたか、あらばその氏名又は分会名、反対意見の内容

(6) その反対意見に対する幹部の態度説得内容

(十四)(1) 指令第一号を郵送で受領したなら、指令第一号の内容(指令第一号別紙を含め)について誰から、何時何処でどのような説明を受けたか(支部長又はオルグが来校して、或は別の会議の席上説明、指示を受けたのではないか)

(2) その際証人はどのような意見を述べたか

(十五)(1) 五月一日頃から同月六日頃の間二回位に亘り

指令一号の取扱についての支部分会長(分闘長)会議が開かれたのではないか。

(2) その回数、並に各日時、場所、出席者人員

出席した支部長、分闘長(又は分会)の氏名如何、出席したオルグの氏名

(3) 各会議における支部長、オルグの説明指示の内容、これに対する分闘長等の発言内容、発言者

(4) 反対意見を述べた者の有無、その意見、内容並に発言者

(5) 反対意見に対する支部長、オルグ等の態度並に説得状況、説得内容

(十六)(1) 右指令第一号の内容は、どのような方法をもつて分会員に周知、徹底せしめたか

(2) そのための分会会議は何回開いたか(四月三十日から五月七日迄の間数回開いたのではないか)

(3) その第一回目の分会々議は何の目的で何時何処で開いたか、分会員は皆出席したか

証人は一斉休暇の件についてどのような説明をしたか(五月七日全員休暇願を出して措置要求大会に出るように又業務命令が出ても返上して参加するようにと云つたのではないか)

分会員からどのような意見が出たか、反対意見はなかつたかあれば氏名(業務命令返上反対意見及び違法闘争であるからやめようとの意見が出たのではないか)これについて証人はどんな意見を述べたか

一斉休暇についてどのような結論になつたか

休暇願の作成、提出方法についてはどのように決めたか

(4) 第二、第三、第四回目の各会合についてはどうか(第一回目の会議と同一の尋問をすること)

(十七) 第一回目の分会会議以前のつまり四月三十日以前分会員が休暇闘争についてどのような考えを持つているかを知つていたか(その頃迄分会員は休暇闘争に余り関心を持つていなかつたのではないか)知つているなら、その内容、そのような意見を持つていつた者の氏名、それを知つた日時、場所

(十八)(1) 証人が分会員に休暇闘争の指示説明をしたのは中闘や支部長等の指示に従つたに過ぎないのか(或は証人独自の見解乃至思いつきにより、独自の判断、計画に従つて分会員に指示したのか)

(2) 若し後者ならその理由、経緯を詳細に述べよ

(十九)(1) 指令第一号受領後、校長、地教委と五月七日の休暇闘争について話し合つた事があるか、

(2) 何回位あるか、何時何処で話し合つたか、話し合い乃至証人等の申入れの内容如何

(3) 証人等の申入れに対する校長、地教委の態度如何(休暇は認めないと云つたのではないか)

(4) 業務命令や臨時休校の話はなかつたか(臨時休校はしない、業務命令を出すと云つていたのではないか)

(二十)(1) 休暇闘争に入る準備として措置要求書代理人選任届委任状等は何時誰が作成したか

(2) それはどう処理したか何時何処で誰に提出したか

(3) その用紙は証人が各分会員に配布したのではないか何時何処で配つたか

(4) 証人はその用紙乃至ヒナ型を何時何処で誰から受取つたのか

(支部の分会長会議で支部長から配布を受けたのではないか)

(二十一)(1) 勤務評定阻止措置要求大会通知書はどのような方法で各分会員に配布されたか

(2) 証人が配布したのか各人宛郵送されたのか

(3) 郵送なら誰が発送したのか

(4) 証人が配布したのなら何時何処で誰から受取り何時何処で分会員に配布したのか

(5) 受取るとき誰からどのような指示注意を受けたか

(6) その集会通知書の名義人は誰になつていたか(福教組中央闘争委員長小野明、福岡県高等学校教職員組合中央闘争委員長上野正六の両名連名のもので夫々の名下に押印があつたのではないか)

(7) その大会通知書の内容はどうなつていたか

(勤評阻止のため人事委員会に勤務条件の措置を全員が要求するから各人は五月七日午前九時○○に集合せよと書いてあつたのではないか)

(8) その集会通知書の宛名(組合員名)集会場所は誰が書いたのか

(9) 証人が書いたなら何時、何処で書き入れたのか

(二十二)(1) 四月三十日から五月七日迄の間中闘委員や支部幹部が一斉休暇参加を説得するため学校等にオルグに来たのではないか(オルグ計画表があるかどうか証を示すこと)

(2) そのオルグの氏名、日時、場所、集会者並に発言内容、分会員に与えた影響を詳細に述べよ

(二十三)(1) 四月中旬から四月末迄の間休暇闘争指導のためのオルグが学校に来たのではないか

(2) 来たならその内容(前項(2)と同一事項尋問のこと)

(二十四)(1) 日教組指令第十七号「勤務評定措置要求に関する件」(証を示す)は何時、何処で誰から受取つたか

(2) 会議の席上ならば

その会議の目的、日時、場所、出席者氏名

会議の状況、説明乃至発言者、その発言内容

(二十五)(1) 一斉休暇闘争突入を激励するため福教組本部から闘争短信と題したはがきがきたことはないか

(2) あるならその日時、内容

(3) そのはがきは分会員にも見せたか、どんな方法で見せたか

(4) 見せなかつたなら説明してやつたか、その日時、場所、相手方の氏名

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